近年、日本の住宅では和室が減り、洋室化が急激に進んでいます。和室が減ることで、和室に欠かせない「襖」「障子」「畳」も必然的に減ってきています。『障子』とは大きな木の枠組みの中に縦と横で多くの桟をつけ、和室の出入口などで使用される建具(たてぐ)のひとつになります。
障子の歴史は平安時代にまで遡り、日本独自の風土に合わせて発展したもので、日本古来の伝統や職人の知恵が詰まっています。
障子には枠組みの組み方や数・機能などにより、さまざまな種類に分けられます。
今回の記事では、『 腰付障子(こしつきしょうじ)』について特徴や魅力、他の障子との違いなどについても詳しく解説していきます。
障子のある和室は機能性が高く、日本人が快適に暮らすためのメリットがたくさんあります。
これからマイホームを購入し、和室を作るかどうか迷っている方はやお家のリフォームを考えてらっしゃる方は、ぜひ参考にしてみてください。
障子のある和室の良さ
和室の良いところは汎用性が高いところです。
和室がひとつあるだけで、寝室・客間・仏間・子供部屋・書斎などさまざまな使い方ができます。
そして和室といえば、まず障子や畳などを思い浮かべる方もいるのではないでしょうか。
和室の出入口などで使われる障子は、外部からの視線を遮ることができるほか、外からの光を柔らかく取り込んでくれる役割があります。
また、障子には断熱効果や調湿効果があるため、夏は涼しく冬は暖かく過ごすことができます。
他にも畳は素足でも気持ちよく、そのまま寝ころんでリラックスしたりすることもできます。
このように障子のある和室には私たち日本人が心地よく暮らすためのメリットがたくさんあります。
腰付障子とは?
『 腰付障子(こしつきしょうじ)』とは、障子の下の部分に板がついている障子のことで室町時代に作られました。
この下部の板が「腰板」と呼ばれているため、「腰付障子」という呼び名がつけられています。また、腰障子(こししょうじ)と呼ばれることもあります。
腰付障子は名前の通り腰板がつけられていますが、その理由は2つあります。
- 和室を頻繁に出入をする場合、ちょっとした拍子で下部の障子紙を破ってしまったり、組子を傷つけてしまう恐れがあるため、「障子紙」ではなく「腰板」にすることで、そういったトラブルを防ぐためにこの障子が生まれました。
- 昔のお家では、部屋の外に廊下が設けられており、もともと腰付障子は外部に面したところで使用される建具でした。
外から横殴りの雨が廊下に吹き込んでくることもよくあったため、雨・風で障子紙が簡単に破けたり、障子が傷んだりしにくいように下部に腰板をつけて対策をしました。
そのため、初期に作られた腰付障子は腰板部分が60〜70㎝くらいと高く、「腰高障子(こしだかしょうじ)」と呼ばれていました。
時代が進むにつれ腰付障子は部屋の仕切りとしての用途が多くなり高い腰板は不要となり、現在では30㎝程度の腰板が主流となっています。
また、現代の家屋では「水越障子(みずこししょうじ)」という障子が一般的に使われています。
水越障子は障子紙が全面に張られ、腰板がついてないことから「腰無障子(こしなししょうじ)」とも呼ばれています。
腰板がなく、外の光を全面的に多く取り込むことができ、部屋全体が明るくなるので現在では最もポピュラーな障子の種類になります。
また、腰付障子はこのように腰板部分に絵が描かれているものや、腰板が障子になっているタイプのものもあり、部屋をよりおしゃれに演出することもできます。
腰付障子の特徴
こちらでは、腰付障子のメリットやデメリットなどの特徴を表にてご紹介します。
メリット | ・絵が描かれているものもあるため、部屋に合わせてデザインが選べる ・下部分は板のため、足で障子紙を破ってしまうことがない ・障子紙が直射日光を和らげてくれる ・断熱効果があり冷暖房の効果を上げてくれる ・湿度を調節してくれる ・障子紙が空気をろ過してくれる ・掃除機をかける際腰板があるので障子を傷める心配がない | ・寝ているときや座っているときに腰板部分が目隠しになる
デメリット | ・桟にほこりがたまりやすい ・全開にできない ・水拭きができない | ・障子紙部分は破れやすい
素材 | ・障子紙 | ・木(主に杉が使われることが多い)
お手入れ方法 | ・腰板や枠の汚れは、しっかりと固く絞った水分が残っていない雑巾で拭く ・日々のお手入れは乾いた布で拭けばOK | ・桟に溜まった埃をはたきなどで優しく落とす
張り替え年数 | 一般的に3~5年が目安 |
腰付障子から派生したおしゃれな障子のご紹介
こちらでは、腰付障子から派生したとされるおしゃれな障子3選をご紹介します。
腰付雪見障子(こしつきゆきみしょうじ)
腰付雪見障子は、雪見障子に腰板がついたものになります。
下部に腰板がついているので、戸の開け閉めの際に誤って足が当たっても、ガラスが割れることがないのがメリットです。
また、通常の雪見障子と同様に開閉しなくても外の景色を眺めることができます。
腰付猫間障子(こしつきねこましょうじ)
腰付猫間障子は、猫間障子の特徴である「小障子」の下に腰板がつけられた障子になります。
小障子は一般的な猫間障子と同じように、上下もしくは左右にスライドできるタイプがあります。
こちらもやはり、現在はガラスがはめ込んであるものが主流のようです。
額入障子(がくいりしょうじ)
額入障子は障子の真ん中くらいに額縁があり、そこにガラスがはめ込んで外の景色が見られるようになっている障子になります。
リビングやお茶の間での使用に向いています。
額の位置は、中央であったり外枠まで及んでいるもの・障子と腰板の間にあるものなどさまざまです。
どれもガラスがはめ込んであるため「ガラス障子」とも呼ばれています。
腰付障子以外の障子の種類と特徴
こちらでは腰付障子以外の障子の種類とそれぞれの特徴に簡単に説明していきます。
雪見障子(ゆきみしょうじ)
「雪見障」とは障子の下半分くらいにガラスが入っており、障子を開けなくても外の景色が見られる障子の種類です。家の中にいながらも外の庭に降る雪を眺めることができることからその名前がつけられました。
雪見障子は猫間障子と似ていますが、ガラス部分に開閉できる小さな障子がついていないものが一般的です。しかし、地方によってはガラス部分に上下にスライドできる小障子がついている雪見障子もあるそうです。
猫間障子(ねこましょうじ)
「猫間障子」とは、障子の下半分に上下または左右に開閉できる小障子が取り付けてあり、ガラスがはめ込まれていない障子のことを指します。この小障子を少し開けておくと、猫が自由に出入りできるように作られました。猫がいる間(部屋)の障子という意味で猫間障子と呼びます。
しかし、現代の猫間障子は小障子部分にガラスが取り付けられているものがほとんど。
これは時代が進むにつれ猫が通る意味が薄れてきたのと、ガラスがない障子は部屋の気密性が悪くなり適度な温度が保たれなくなるなど、家の性能が悪くなるため小障子部分にガラスを取り付けるようになりました。
荒組障子(あらぐみしょうじ)
荒組障子とは、横組障子を基本として縦横の組子の数が少なく組まれている障子の種類になります。
和洋どちらの部屋にもマッチするシンプルなデザインで、別名「荒間障子(あらましょうじ)」や「大荒組障子(おおあらぐみしょうじ)」と呼ばれることもあります。木造住宅などの一般家庭でよく目にする機会が多い障子です。
縦繁障子(たてしげしょうじ)
繁障子は横組障子を基準として、縦方向の組子が細かくたくさん入っている障子の種類になります。
関西地方で特に使われている障子で、玄関の引戸などでもよく使われています。組子が縦に細かいため、障子全体をスマートに見せる効果があります。また、「繁(しげ)」とは、細かいものが横に連続して並んでいることを指します。
横繁障子(よこしげしょうじ)
横繁障子とは横組障子を基本にして、横に組子を細かい間隔で入れた障子の種類になります。
特に関東地方でよく好まれており、横の組子が多いことで奥行きを広く見せる効果があります。茶室や床の間の書院でよく目にすることが多い障子です。
腰付障子の構造
こちらでは、腰付障子の構造について画像と表を使って簡単にご説明します。
名称 | 各部分の詳細 |
上框(うわがまち) | 障子の周囲の枠のうち一番上にある横の木 |
組子(くみこ) | 障子の内枠に組まれている格子を構成する木 |
縦子(たてこ) | 障子の組子のうち縦に組まれている木、縦組子(たてくみこ)とも言う |
障子紙(しょうじがみ) | 障子枠に貼り付ける和紙でできた紙このと |
中框(なかかまち) | 上框と下框の間にある太い組子のこと |
腰板(こしいた) | 障子枠の下側についている板のこと |
下框(しもがまち) | 障子の周囲のうち一番下にある横の木 |
腰付障子のメンテナンスについて
腰付障子のメンテナンスをご紹介していきます。
【普段のお手入れ】
- 桟に溜まっているホコリをはたきなどで丁寧に払う。
- ホコリが取れにくい場合は、ブラシや布を使ってホコリを取り除く。
- 障子枠や腰板が汚れたら固く絞った水分が残っていない雑巾で拭く。
- 引手回りは白木用のクリーナーを使う。もしくは、キッチン用洗剤を水で薄め、雑巾につけよく絞って拭きます。拭き終わったら再度で濡らした雑巾を固く絞り仕上げ拭きをする。
障子枠は水に弱いため、雑巾をしっかりと絞って水分が残らないようにしてから拭くのがポイント。障子枠は、桟にホコリが溜まりやすいため、ホコリが溜まってカビが繁殖する前に桟をこまめに掃除をすることがとても大切です。
【障子枠が折れてしまったら…】
障子に使われている木材は柔らかくて細いため、壊れやすいという特徴があります。また、お子様が誤って障子にぶつかってしまったり、ものが当たってしまうことも少なくありません。その際に障子枠が折れてしまったら、あまりにもひどい状態でなければご自身で応急処置をすることができます。
もし、障子枠が折れてしまったら、「タコ糸」と「木工用ボンド」を使用します。
修理方法は以下の通りです。
- 折れた部分に木工用ボンドを塗る
- 元の状態になるように位置を確認して、接着
- タコ糸を巻いて固定し、1~2日ほど待つ
貼り付けの際には、折れた位置がズレないように慎重に接着してください。
障子枠の一部が欠けてしまった場合は、その部分に合った木材を購入し補修することも可能です。
色合わせが難しいこともあるため、ピッタリ色が合わない場合は上から色を塗ったりしなければならないため時間と手間がかかってしまいます。
もし、障子の破損がひどい場合は、障子をまるごと新調することをお勧めします。
和紙の障子紙は破れやすく水拭きができないなどのデメリットがあります。そのようなデメリットを克服した「プラスチック障子紙」に変えるという手段もあります。プラスチック障子紙は和紙よりも耐久性が高く、水拭きもできるため普段のお手入れが楽になります。
メンテナンスは上記のようなDIYでも可能ですが、仕上がりのキレイさや手間などを考えるとやはり張り替え専門店に依頼をする方がベストかもしれません。
腰付障子の張り替えについて
こちらでは腰付障子の張り替えについて説明していきます。(のりで貼る障子紙の場合)
【用意するもの】
- のり
- カッター
- 雑巾
- スポンジ
- ハケ
- 障子紙
- 霧吹き
- 仮止めテープ
- ビニールシート など
【障子紙の張り替え手順】
ご自身で腰付障子の張り替えをするには、たくさんの道具と工程があります。
また、障子を取り外す際も重くて危険なので、トータル面を考えると張り替えは専門店に依頼することをおすすめします。
- 障子の上部を持ちながら、下部を引き抜くようにし取り外す
- 取り外した障子をビニールシートなどの上に置く
- 水を含ませたスポンジで古い障子紙の上から桟をまんべんなく濡らす
- 5分ほど経ったらゆっくりと古い障子紙を剥がす
- 桟についている古いのりをヘラを使いキレイに取る
- 雑巾で拭き取り風通しの良い場所で乾かす
- 障子枠に沿ってのりをつける
- 障子枠に沿って障子紙をゆっくりと貼り付ける
- 桟の上を軽く押さえてたるみが出ないよう接着させる
- はみ出した余分な障子紙をカットす
- のりが乾いたら障子紙全体に薄く霧吹きをし乾かす
- 障子の上部をはめて押し込みながら下部を入れ元の位置に取り付ける
腰付障子の張り替えは専門店へ
腰付障子の張り替えは自分でもできますが、いろいろなことをトータルで考えると専門店にお願いするのが一番ベストだと言えます。
張り替えは専門店がいい理由は
- 張り替えに必要な専門的な工具を用意しなくていい
- 自分で張り替えるより仕上がりがキレイ
- 時間や手間がかからずに済む
- アフターサポートが充実している
- 障子の悩みに的確に答えてくれる
- 作業の際にケガをせずに済む
- 障子のトラブルをすぐに解決してくれる
- 障子枠のサイズに悩まなくていい
- 相談しながら理想どおりの仕上がりにしてもらえる
などがあります。
まとめ
今回は、腰付障子について特徴やほかの障子との違い・構造・メンテナンス方法や張り替えなどについて詳しくご紹介しました。
腰付障子は昔の家屋では外に面した部屋で風雨避を避けるために使われていたので、腰板が高く作られていましたが、現在では部屋の仕切りとして使われいるため腰板は30㎝程度になっています。しかし今の日本では腰板がついておらず、全面的に光が取り込める水越障子がポピュラーであるということがわかりました。
また、腰付障子の張り替えやメンテナンスは、トータル的なことを踏まえて専門店にお願いするのがおすすめです。
そして腰付障子には、腰板に絵が描かれていたり障子紙が貼ってあるものもあり、部屋に合わせてデザインを選ぶことも可能です。これからマイホームを購入予定で和室を作るか考えている方は、ぜひ腰付障子を取り入れることを検討してみてください。