6月に入り気温もどんどん上がり暑く、湿度が高い日も増えてきました。
そんな時期は自宅の畳やゴザのある部屋で寝転んだりして涼む機会も増えてきます。なので本格的に畳を使う前に、畳の張り替えやメンテナンスを考えている方もいらっしゃるのではないかと思います。
畳の構造は畳表(たたみおもて)・畳縁(たたみべり)・畳床(たたみどこ)の3つの構成でできています。
その中でも畳の芯に当たり、普段は外から見えない部分が「畳床」。今回は畳床に焦点を当てて解説していきます。
畳床にはさまざまな種類があるので、知っていただくことでこれから張り替えを考えている方は畳選びに役立ちます。
また、現在畳の部屋がある方はメンテナンス方法についての詳細を知ることができますのでぜひ参考にしてみてくさだい。
畳とは?
畳とは古くから伝統的な住居に使われてきた日本固有の床材です。その歴史は縄文時代〜弥生時代の祖先が敷物として生活圏内にあった稲藁(いなわら)を敷いたことが始まりとされています。
現在の畳の形に近くなったのは平安時代とされており、元々は身分の高い人や客をもてなすための道具として使用されていました。ですが江戸時代中期以降には一般庶民にも定着したようです。
畳は主にい草(いぐさ)という植物が原料で、リラックス効果・消臭効果・調湿効果・断熱効果・吸水効果など心地いい暮らしのためのメリットをたくさん持っています。最近ではい草のほかに和紙や樹脂などでできた畳も登場しており、耐久性が高くダニが発生しにくいなどの特徴があります。
畳の部屋というと昔ながらの印象が強く、古臭い印象を受けてしまう方もいるかもしれません。ですが、現代の畳は色やデザインも豊富でさまざまな種類があり、自分の好みに合わせてオシャレな和室を作ることができます。
畳の種類などについては、前回の記事で詳しくご紹介していますのでぜひご覧ください。
畳床(たたみどこ)の種類について
畳床とは普段は畳表で隠されているので見えませんが、畳の芯材となる部分のことを指します。
その素材はいろいろありますのでこちらでご紹介していきます。
藁床(わらどこ)
藁床は一番伝統のある昔ながらの畳床です。乾燥した稲藁を何重にも重ね合わせ、圧縮し縫いあげて作られます。
調湿機能・防音性・断熱性が良いなどのメリットがあり、他の畳床と比較すると足当たりがとても優秀です。
しかしながら、重量があり湿気で腐敗しやすくカビやダニが繁殖しやすいというデメリットもあります。
また、近年では稲藁自体の生産量が減っているので高価であり、職人の高齢化に対応できていないこともあり、需要は減りつつあります。
スタイロ床(すたいろどこ)
スタイロ床は「藁サンド床(わらさんどどこ)」とも呼ばれ、藁と藁の間に「ポリスチレンフォーム」を挟んである畳床のことです。
『ポリスチレンフォーム』とは?
→ 弁当などの容器などに使われる発泡樹脂のことで、有害性も低いとされている物質です。
「スタイロフォーム」とも呼ばれています。
スタイロ床は表面は藁でできているので、質感は藁床に似ています。
また、藁床よりも軽量で湿度に強く断熱性もあり、藁の使用量も少ないためカビやダニの発生を抑制できます。
しかし、素材となるポリスチレンフォームは”自然界に廃棄してしまう”と多様な環境問題の要因となってしまうことがわかっています。
建材床(けんざいどこ)
建材床とは、木質でできたボードを使用して製造された畳床です。建材床はさらに3つの種類にわかれますので、こちらでそれぞれ解説していきます。
Ⅰ型建材床
Ⅰ型建材床は、「インシュレーションボード」のみを使って作られた畳床です。
藁とは違い、均一なので畳を作りやすく寸法も出しやすいというメリットがあります。
また、へたりも出にくいため耐久性に優れリサイクル性が高いので、環境に与える影響も少ない商品です。アパートやマンションなどの賃貸住宅に多く使用され、現在の畳の主流になりつつあります。
しかし藁と比較すると重量があり、価格も高価で傷や凹みができた際の修理が難しいというデメリットがあります。
『インシュレーションボードとは?』
木材を熱にかけて繊維状にした後、紙のように漉いて常温で乾燥し形作られた材料のこと。
多孔質で軽く、断熱性や吸放質性・防音効果に優れています。内外装・屋根などの下地として使われます。
Ⅱ型建材床
Ⅱ型建材床は、インシュレーションボードが上、ポリスチレンフォームが下という構造でできています。インシュレーションボードはそこまで湿気に強くないため、下にポリスチレンフォームがあることでより湿気から守ることができます。
重さは藁の畳に比べると1/3と軽く、藁と比較すると製造も簡単で技術を要しません。また、人工素材なのでダニが発生しにくく安い藁を使用していないため衛生的、機械で大量生産が可能なので値段が安いというメリットがあります。
一方で、張り替えの際は畳表をポリスチレンフォーム面に縫い付けないといけないため、張り替えにはあまり適していません。そして、傷や凹みの修理が難しく寿命が短い・通気性があまりよくないというデメリットも持ち合わせています。
Ⅲ型建材床
Ⅲ型建材床は、インシュレーションボードの間にポリスチレンフォームが挟んであるタイプの畳床で一般的な住宅でよく使われています。
安価で加工が簡単なため、コストダウンができます。また軽く湿度にもある程度強いのでカビやダニの発生が抑えられ、現代の高気密住宅に適しています。
しかし、ポリスチレンフォームを使用しているのでへたりだすと腰の抜けは早く、耐久性に乏しく、寿命が短い分張り替えのリサイクルも早くなります。
畳床各種の比較
ご紹介した畳床のうち、近年最も一般的に使われている畳床は「建材床」です。
建材床は3種類を総合的に見ても稲藁を使用していないことから、カビやダニが発生しにくく軽量で安価・大量生産ができるということがその理由になります。
畳床の種類 | 素材 | メリット | デメリット |
藁床 | ・稲藁 | ・防音性が高い ・断熱性が高い ・足当たりが良い | ・調湿機能がある・カビやダニが発生しやすい ・生産量が減っている ・職人が高齢化のため減少 ・重量 | ・湿気を吸い込みやすいため腐敗しやすい
スタイロ床 | ・ポリスチレンフォーム | ・稲藁 ・稲藁と同じような質感 ・藁に比べ軽量 | ・湿度に強い・自然界に廃棄すると環境問題の原因となる |
Ⅰ型建材床 | インシュレーションボード | ・寸法が出しやすい ・環境に優しい ・耐久性が高い ・リサイクル性が高い | ・畳が作りやすい・高価 ・修理が難しい | ・重量
Ⅱ型建材床 | ・ポリスチレンフォーム(スタイロフォーム) | ・インシュレーションボード・虫がつきにくい ・安価 ・製造技術がいらない | ・大量生産ができる・傷や凹みの修理が難しい ・寿命が短い ・張り替えが難しい | ・通気性が良くない
Ⅲ型建材床 | ・ポリスチレンフォーム(スタイロフォーム) | ・インシュレーションボード・加工が簡単 ・ある程度湿気に強い ・カビやダニが発生しにくい | ・安価・耐久性が乏しい ・寿命が短い | ・腰の抜けが早い
畳のメンテナンスについて
畳の基本的な掃除方法
畳の基本的な掃除方法は以下の4ステップです。
- 畳の上にあるゴミやホコリを目に沿って掃除機やほうきで優しく取り除く
- 畳のすき間に詰まったゴミはほうきでかき出すようにして取る
- 水で濡らした雑巾を固く絞り目に沿って拭く
- 乾いた柔らかい布で乾拭きをして仕上げる
普段の掃除は、掃除機をかけたりほうきでゴミを掃いたりするだけで十分ですが、食べかすがあるとカビやダニが発生する原因となりますので、こまめに掃除することが大切です。その際、必ず畳の目に沿って優しくゴミを吸い取ることを心がけてください。
水拭きを行う場合は月に1度くらいのペースがおすすめです。濡らした雑巾をしっかりと絞り、畳の目に沿って力を入れずに拭いてください。余分な水分を吸収させないことがポイントです。
乾拭きに使う雑巾は化学繊維が入っておらず、昔からある柔らかい綿の布を使用するのがベストです。
畳のお悩み別メンテナンス方法
続いて、お悩み別の畳のメンテナンス方法をご紹介します。
カビ
畳の素材であるい草は、湿気を吸収しやすく室内が気温25℃以上・湿度70%以上になるとい畳表が不健康な状態になり、カビが繁殖しやすくなります。カビは3つの条件『湿度・温度・栄養』が揃えば繁殖するので、この条件のうちのひとつでも除去できればカビの問題を解決できます。
よって、
- 1日1回は部屋の換気をして湿気がこもらないようにする
- 食べこぼしなどを掃除をする(カビ菌の栄養のもと)
- エアコンを使い部屋の温度を下げる
このようなことを心がけることがポイントです。
また、カビには消毒用エタノールの使用も効果的です。カビが生えているところに消毒用エタノールを吹き付け、水分が残らないよう乾いた雑巾でしっかりと拭き取ります。
ダニ
ダニは畳にホコリやゴミが溜まってしまうことで発生します。また、い草は湿気を吸収しやすいので、ダニにとっては打ってつけの繁殖場所になります。
畳を汚したくないからという理由で、畳の上にカーペットなどの敷物を敷くのはNG。敷物を敷くことで湿気が逃げにくくなるのと、掃除がしにくくなるためダニが発生しやすい原因となってしまうからです。ダニを発生させないためには、畳の上のゴミやホコリをこまめに掃除することが大切です。
さらにダニの弱点は高温と乾燥なので、60℃以上の熱風で駆除することができます。畳の取り外しが可能なら天気がいい日に外に出して乾燥させ、取り外しが不可であれば布団乾燥機を畳の上に置き、その上から布団をかけて乾燥させてください。
焦げ跡(こげあと)
畳の上でタバコを吸っていたら、灰が落ちて畳を焦がしてしまったという方もいるのではないでしょうか。畳に焦げ跡がついた場合、目立たないようにするための処置方法がいくつかありますが、焦げ跡が小さい場合と大きいばあいでは、対処方法が異なります。
『焦げ跡が小さい場合』
- 水拭きしたあと240前後のサンドペーパーを使い、焦げた部分が消えるまで優しく削り取る
- 先の尖ったもので焦げた部分を取り除き、左右のい草を取り除いた部分に寄せて穴を埋める
水で薄めたキッチン用漂白剤を水で薄め、焦げ跡部分を拭き、色が薄くなったら水拭き⇒乾拭きで完了
『焦げ跡が大きい場合』
似たような色の畳用補修シールを購入し、焦げ跡のサイズに合わせて切り取って貼る。補修シールは畳と同様の模様がプリントされているので、畳の目に合わせて貼るのがポイント。
上記でご紹介したものは応急処置になります。焦げ跡が大きく、ご紹介した処置で対処できない場合は畳の張り替えをしなければなりません。畳の張り替え方法は3種類あり以下になります。
- 畳床はそのままで、畳表と畳縁を新しくする「表替え(おもてがえ)」
- 畳表をひっくり返す「裏返し(うらがえし)」
- 全てを新しくする「新調(しんちょう)」
張り替え方法はそれぞれ費用が違うため、適した張り替え方法を選択しなければなりません。ですが、張り替えとなるとどの方法を選べばいいか迷ってしまう方もいらっしゃると思います。その際は、プロの張り替え専門店に依頼することをおすすめします。
へこみ
畳がへこんでしまう原因は、ベッドやテーブルなど重い家具を置くことで起こります。
い草で作られている畳は、フローリングと比較すると柔らかいのでどうしてもへこみやすくなってしまいます。ですが、い草は熱と水分を与えることで繊維が膨らんで元に戻ろうとするので、その原理を活かした応急処置が、アイロン雑巾を使う方法です。
『アイロンと雑巾を使う方法』
- 雑巾を水で濡らし固く絞っておく
- 濡らした雑巾を畳のへこみが気になる部分に置く
- その上からアイロンを当てる
- へこみが戻るまで何度か繰り返す
- しっかりと乾かす
簡単にへこみを直す応急処置ですが、い草にアイロンの跡が残らないように注意することが大切です。
その他に、100均やホームセンターなどで販売されている「へこみ防止グッズ」を事前に使うのもひとつの方法です。
畳のメンテナンスでNGなこと
畳のメンテナンスで間違ったやり方をしてしまうと、畳が傷ついたり劣化したりする原因になります。こちらでは、畳のメンテナンスにおいてNGなことを解説していきます。
重曹を使用しての掃除
重曹は、良く家の掃除に使われ頑固な汚れも落としてくれる優れモノですが、畳の掃除には向いていません。重曹はアルカリ性であるため、畳掃除に使用すると黄ばみができたり、黒い斑点のようなシミができてしまい取れないこともあります。
畳掃除には重曹でなく殺菌効果があり、カビやダニの発生を防ぐ効果が期待できる「クエン酸」を使うことをおすすめします。
強力な薬剤
畳のカビ取りに強力な薬剤(漂白剤やカビ取りクリーナーなど)は使用しないようにしてください。強い薬剤を使うことでい草が傷んで変色してしまう恐れがあります。
粘着シートタイプのクリーナー
カーペットなどのゴミやホコリをコロコロしながら取る粘着クリーナーを畳に使うことはおすすめしません。
コロコロは粘着力が強いので、畳表のい草がほつれたり毛羽だったりする原因になるからです。畳のゴミやホコリはほうきで払って掃除するのがベストです。
ロボット掃除機
ルンバなどのロボット掃除機はフローリングの掃除が自動でしてれますが、畳掃除には不向きです。
畳掃除をするときは、畳の目に沿ってほうきや雑巾を動かして作業をしますが、ロボット掃除機は畳の目に沿って動くことができません。よって、ロボット掃除機のブラシで畳のい草が傷つき、ささくれができてしまいます。
畳の張り替えは専門店がおすすめ
畳の張り替えは専門店に依頼して行うのがおすすめです。
その理由として、以下が上げられます。
- 張り替える時間が早い
- 失敗のリスクがなく美しい仕上がりになる
- アフターサポートが充実している
- 張り替え専用の工具を用意しなくて良い
- 適した畳を選んでもらえる
- 畳の寸法で迷わない
- 畳についての疑問に答えてくれる
DIYの張り替えは、畳について知識がないと失敗するリスクが高く、かえって時間や手間がかかる可能性がありますので、無理をせず業者に依頼するほうが確実です。
まとめ
今回は、畳の芯となる部分「畳床」の種類やそれぞれの特徴と、畳の正しいメンテナンス方法をご紹介しました。
畳は起源が縄文時代と長い歴史があり、現在の日本人の暮らしを快適にしてくれる床材です。
畳床には種類があり、藁床はい草の香りを楽しんだり天然の断熱効果が期待できるので昔ながらの畳を好む方にはおすすめです。しかし現代の住宅は、気密性がとても高いことが多く屋外の湿気を逃すことができません。したがって、これから畳の張り替えを考えている方は、スタイロ床や建材床にすることを検討してみてください。
その際、自分で判断せず専門店に相談しながら適した畳床を選択すると間違いがありません。ただし、専門店であっても悪徳業者がいることもありますので、利用する前に店舗の場所や口コミなどをSNSなどで調べておくことが大切です。その際、無料点検・無料見積・返品保証などがあるかをしっかりと確認しておくことがポイントです。
また、畳のメンテナンスをする方は正しい方法で畳をキレイにし、快適な夏をお過ごしください。